我が知床の師匠、嶋磯松が1月6日に亡くなった。72歳だった。私は嶋磯松を船長と呼び、尊敬してきた。船長は私にとってかけがえのない人だった。また出来の悪い師でもあった。嶋磯松について書き残しておこうと思う。
出会った20数年前、嶋磯松は全盛期の羅臼のスケソ漁船の船長だった。私はNHKの番組取材で初めて嶋さんに出会った。有名人好きの嶋船長は役場と漁協に頼まれて取材船の船頭をしていた。何しろ船長は小林旭や藤田まこと、浅丘ルリ子と文通するほどの仲なのだそうだ。しかしこの仕事では横柄なNHKと横暴なアウトドア著名人にあきれ、同じ立場の私と当然のことながら馬が合った。私は撮影クルーの飯炊きをしていた。
私ははるか昔に徒歩で半島を回ったことがあり、冬の知床山脈縦走でこの土地の風の怖さを知っていた。だから海岸の地形や気象に詳しかった。それで船長の信頼を得た。しかし私の料理は口に合わなかったらしい。いつも顔をしかめて文句を言いながら食べていた。私は嶋磯松に出会ったことで知床の海と人間に再び興味を持ち、ガイドまでするようになった。