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知床エクスペディション

知床半島周回シーカヤックツアー「知床エクスペディション」を主催するガイド・新谷暁生のブログ。

第10回知床シーカヤックシンポジウムに向けて。

なまこ湾で3日停滞ののち、アイドマリまで一気に漕いで今年5回目のツアーは無事に終わった。到着翌日に羅臼の萬さんたちがペキンノ鼻へ漕ぎ出して行った。マス狙いだ。その次の日、大阪のにいさんが一人で出発した。艇は水野さんのシメスタ、かなりの経験者のようだった。
私は彼にウトロの着岸場所を教え、彼が浜の藪に隠したゲンチャリで問題が起こらぬよう、ウトロの赤沢さんに連絡した。彼は1泊しただけでウトロに着いたとその後連絡があった。貸したソーラーランタンを海に流したらしいが、そんなものはどうでもよい。
ヒグマにも相当驚かされたらしい。また海も悪かったという。無事で良かった。私はこういう人に漕いでもらいたいし、知床の本当の姿を知ってほしいと思っている。それは私の商業ツアーとは全く別次元の体験なのだ。
10回目の知床シンポジウムが始まる。参加者は年々減り、こちらから参加をお断りする人もいる。今年のゲストは柴田丈広、吉角立自、水野義弘。彼らの話を知床の海で聞けるのは貴重だ。3人は日本のシーカヤック界に大きな役割を果たしてきた人たちだ。
お盆を過ぎて知床は寒くなった。北風が強く海も悪い。知床は一周70キロで、ゆっくり漕いでも2泊あれば回れるが、悪天候につかまれば動けないのがこの半島の怖さだ。逃げ場がない。
漕ぎ方はふたつある。ひとつは短時間で回る方法。私は昔、12時間で回ったことがある。もうひとつは悪天候に耐えて時間をかける方法。知床エクスペディションは過去の苦い体験から海上6泊の準備をしている。長期の野営は疲れる。しかしこれはパタゴニアやアリューシャンを漕ぐ時と同じ方法だ。
私にとってヒグマは怖い存在ではない。海のほうがはるかに怖い。しかし危険なヒグマが増えているのも事実だ。ヒグマは猛獣だが本来臆病な動物だ。本能的に人間の怖さを知っている彼らは、人を見れば逃げる。私はキャンプ地に現れるヒグマをいつも追い払ってきた。
このところ人を恐れない個体が増えた。彼らは釣り人やトレッカー、カヤッカーの荷物から、人と食べ物の関係を学ぶ。釣り人や漁師はヒグマを見れば竿や弁当を捨てて逃げる。ヒグマは何事かと思うが、驚かせれば食べ物が手に入ることをそれで憶える。
人とヒグマは共存してきた。そしてそれは狩猟によって保たれてきた。間引きは野生を健全に保つ。しかしここまで数が増えれば駆除も追い付かない。
この先はすべてにおいて本当に人の知恵が試される。少なくとも欧米から移入された自然史観をそのままありがたがるのではなく、旧型や日本型に咀嚼して現代に生かす作業は必要ではないだろうか。
数が増えれば当然問題が起こる。そしてひとつを解決してもまた新しい問題が出現する。人を排除すれば済む話ではない。先進的に見える今日の考え方は、ともすれば人を忘れる全体主義的な傾向に傾く危険をはらんでいる。知床の危機は急速に顕在化しはじめた。私たちはいつまでこの海を自由に漕ぎ続けられるだろうか。
記念すべき10回目の知床シンポジウムが無事に終わることを願っている。
ガイド新谷暁生

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プロフィール

名前
新谷暁生
性別
男性